呉服屋の若旦那に恋しました


ならよろしい、と言って、志貴はまた私の頭を撫でた。

なんだ、そういう訳だったのか……。

なぜか安堵している自分。理由は分からないけれど、なんだかほっとした。

それが志貴にも伝わったのか、志貴は呆れたようにもう一度笑った。


「ほら、だからはやく寝な。男の部屋にあんまり遅い時間までいるんじゃない」

「はーい」

「はいと言いなさい。伸ばさない」

「深夜番組観たいのにー」

「………」

「別に志貴の部屋にいたって、何も起きないじゃん」

「……そうやな」

「志貴いっつもニュース観てるかクックパッド投稿してるかだし」

「今月も殿堂入り目指してるからな」

「志貴って本当に器用ー…」

「衣都」



ちゅ。


雨音が、一瞬だけ聞こえなくなった。

リップ音と、後頭部にまわった手と、硬直した私の体。

唇が離れても、私は暫し頭の中が真っ白で、何も考えることができなかった。



「え……?」

「そろそろ、何か起きてもええ頃かな思って」

「な、なに、え……」

「じゃ、おやすみ」

「………………」


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