殺戮都市
「葉山、あんたは女の子達を守ってなよ。私達で何とかするからさ」


そう言うより早く、狩野がナイトに斬り掛かる。


普通のナイトなら、その動きさえ捉えられずに地面に伏していただろうけど、このナイトは違った。


左手の盾で狩野の斬撃をあっさりとガードし、右手の槍で反撃。


盾で視界が塞がれていて、一瞬判断が遅れた狩野に、槍の先端が迫る。


「ふんっ!」


だが、それを予期していたかのように中川がハンマーで槍を叩き落とした。


「邪魔すんな!」


「強がるんじゃねえ!死んでたぞお前!」


「二人とも黙れ!」


そんな二人の頭上を越えて飛び上がり、恵梨香がライフルを取り出してナイトの頭部に向けてトリガーを引いた。


ドンッという、激しい音と共に、ナイトの兜が吹っ飛ぶ。


しかし……肉体には何のダメージもないようで。


こうなると予測していなかった三人は、次の行動に移る判断が僅かに遅れたのだ。


盾を持つ手に力を込め、それを振って三人を後方に弾き飛ばした。


明らかに今までのナイトとは比べ物にならない強さ。


予想外の強さの敵を前に、どうすべきか恵梨香は悩んだ。


こんな時、いつもそばにあいつがいてくれた。


絶対に勝てないと思っていた相手にだって、いつも果敢に挑んで道を切り開いて来た少年が。








そんな恵梨香の目の前で、ナイトが急に動きを止めた。


その頭部には何かが突き刺さっていて……それは、いつも近くで見ていた物。


グラリとバランスを崩し、地面に倒れたナイトの向こう。













「いやあ、参りましたよ。中央部を抜けようと思ったら、怪物が強くなってるじゃないですか。やっと東軍に来て、銃声が近くから聞こえたと思ったら……」









その姿を見て、メットの中で誰にも分からないように恵梨香は涙を零した。


「遅かったじゃない、真治。私はあんたとの約束を守ったからね。今度はあんたが約束を守りなよ」


真治は、最後に狩野と約束をしていた。


「全員が生き返ったら、俺の大切な人達を守ってくれ」


その約束を果たしていた狩野は、恵梨香を指差した。


「ああ、今度こそ、皆で一緒にこの街から出よう。俺はその為に帰って来たんだから」


真治の言葉に同調するように、そこにいた誰もがバベルの塔を見上げた。
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