彼はマネージャー

 今まで同級生としか身体関係を交わしたことがない柚木にとって、年上の良成は未知の世界の存在であって、しかも予想とは違っていた。

 30半ばも近くなればそれなりに体力も落ちて、時によれば反応しないこともあるんじゃないかと思っていたが、そうではなかった。

「まだ2回しかイってない」

 女は3回、男は1回と自らの中で定めているのか、このセリフをほぼ必ず耳元で囁き、強引に身体を絶頂まで追い詰めさせてくる。

つまりその3回目には身体はくたくたの翌日筋肉痛必須の状態になっているのだが、そこからの、男の1回のために身体を揺さぶられることになる。一度風邪で熱があるままいつもの通りこなして、途中で意識を失くしたことがあり、毎回、良成の容赦のなさは恐ろしいと思わされる。

特に、明日の朝早いとなれば起きられないような気がして怖い。

遅刻となれば二塚の目玉を食らうことは避けられず、前回の監査の件といい、良い所ナシの硬直状態が続いてしまう。

「香織、香織! 着いたよ。……7時20分」

 前日休みだったとはいえ、この良成の元気はどこから湧いてくるのか不思議だ。

「途中で時間あったからパンとおにぎり買っといた。あとはオレンジジュースでよかったっけ? 栄養ドリンクと」

「…………ごめん、寝てた」

「まあ昨日も激しかったからな」

 気持ち早く寝ようって言ったのに、何でそんな自信満々の笑みなの……。

「……ありがとう……栄養ドリンクまで」

「栄養つけとかないと、今日一日長いからな……」

 言いながら頬にキスを落としてくれる。

 メガネがカチャリとあたって冷たい。

「さ、もう行くわ。俺も遅れる」

 良成は腕のロレックスを見た。まあ、朝の時間にお互い間に合うのなら、夜の激しさを咎める理由にはならない、か……。

「うん、じゃあ、ありがとう……また」

 車から降りて手を振ったのに、良成はアクセルを踏まずに、笑顔でこちらに手を振っている。

 柚木は、手を下げてくるりと後ろを振り返り従業員通用口を目指す。途中で腕時計を見た。左手にはめているのは、入社二年目時ボーナス全てをつぎ込んで買った50万のカルティエだ。これをつけて、マネージャーになると決めた。女性が少ないこの会社でマネージャーまで上り詰めた女性は2人しかいないと聞く。しかも、今は2人とも退職していない。今も、マネージャー補佐まで出世したのは、柚木が同期で一番最初だ。

 顔を上げて、通用口の扉を開けて中に入る。

 そこで、背後から小さく車の音が聞こえて振り返った。良成が出て行ったのと同時に、二塚のプジョーが駐車場に入ってきた。

 柚木は逃げる思いで階段を駆け上がり、更衣室へと急ぐ。

 打刻をしてからバックをロッカーに置き、いつ作業の人に呼ばれてもいいように、とりあえずまたメールの確認作業をマネージャールームで始めておく。

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