愛情の鎖
私が今住んでいる所はまさにそんな黒く汚れた世界ーー…
改めて痛感させられると、無性にやりきれなくてゾッと寒気さえ襲った。
できるならこんなこんな場所から今すぐにも抜け出してしまいたい。
だけど、今の私にはそんな力は微塵もありはしない。
そう思ったら、自分が余計ちっぽけに思えて胸がぎゅうぎゅうと締め付けられた。
「お帰りなさいませ」
遠藤さんの出迎えもそこそこに、私はエレベーターの前までヨロヨロとたどり着く。
やたら体が重かった。
なんだか視界もちょっぴりかすれて見える。
そしてチンっと目の前の扉があき、ぼーっとしながら足を進めた私はエレベーターを降りる人の気配にも気付けなかった。
「きゃっ…」
案の定何かに体当たりするようにぶつかり、そこでようやくハッと顔を上げた。
「ご、ごめんなさっ…」
慌てて顔を上げた瞬間、一気に体が硬直する。
「……梨央?」
ーー…えっ?
聞き覚えのある低音ボイス。
声の元にしっかり視線を定めると、そこには朝もエントラスですれ違ったばかりのあのコウさんの姿があって…
「…あ……」
急な鉢合わせに目を丸くする。
今朝素っ気なくあんな態度をとったばかりなのに、正直どんな顔していいのか分からない。