下町退魔師の日常
「でも良かったです、マツコさんが戦う前に、間に合って」
「タカシくん・・・」
「僕も、マツコさんと久遠さんを応援したいんです。あわよくば、力になりたい。本気でそう思ってます」


 ありがとう。
 本当に、その気持ち、嬉しい。
 ――でもね。
 今日ずっと言いたい事を口に出そうとした時、また戸が開いた。
 今度は誰だろ?


「あ、シゲさん」


 入って来たのはシゲさんだった。
 暑がりのシゲさんは、やたらと手ぬぐいで汗を拭きながら、大騒ぎになっている休憩室を見渡した。


「確かここは銭湯じゃなかったか? いつから宴会場になったんだよ?」


 いやシゲさんだって、しょっちゅう宴会してたんですけど。
 そうツッコミを入れる前に、幹久が。


「おいシゲさん、何で連中連れて来るんだよ!?」


 連中?
 あたしは、開いた戸の向こう側を覗く。


「・・・あ」


 商店街の人達を始め、町のおじさまおばさま連中。
 その人達が、松の湯の前の道にずらりと並んでいる。


「別にわざと連れて来た訳じゃねえよ。連中今朝からお前らが何か企んでるのを知ってたし、俺からマツコを説得してくれってせがまれたもんでなぁ」


 ほぉら。
 情報網を甘く見ちゃいけないんだってば。


「んで、説得する気あんのかよ、シゲさん」
「まぁ、あるっちゃあるけどなぁ」


 よっこらしょ、と、シゲさんは幹久の隣に腰を下ろした。


「マツコの頑固さは、よぉく分かってるからなぁ。俺が何か言ったところで何も変わらねぇんだろうなぁ」
「じゃ、あの連中どっかやってくれよ。邪魔で仕方ねぇよ」
「幹久」


 あたしは、今にも外の人達を追い返そうとする幹久を制する。


「何だよ?」
「丁度いいよ、あたし、みんなに言いたいことがあるの」


 この町の殆どの人がここに集まったなら、手間がはぶけるってもんだわ。
 あたしは、よっこらしょと番台から降りた。


「みんな、聞いて!」


 松の湯の中の人も外の人達にも聞こえるように、あたしは入り口に立ち、声を張り上げた。
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