下町退魔師の日常
~第九章~【戦いのある日常】
【第九章】

~戦いのある日常~





 空き地の祠の前に、あたし達は立っていた。
 あたしの右斜め前に、久遠くん。
 左の足元には、サスケ。
 昼間はあんなに天気が良かったのに、暗くなった今はだんだん風が強くなってきて。
 夜空には雲が立ち込めていて、星はまるで見えない。
 だけど雲は薄く、月だけはちらほらと、流れの早い雲に見え隠れしていた。
 この分じゃ、雨の心配はなさそうだ。
 決死の戦いのさなか、足元がぬかるんで動きにくくなるっていう事態は避けられそう。
 あたしは、足元に視線を落として、自嘲的に笑った。
 決死の戦い、か。
 これは、日常を取り戻す為の戦い。
 この下町の、非日常的な日常を、本当の意味での、普通の日常に戻すため。
 あたしという退魔師がいらない町にするため。
 そこまで考えて、少しだけ寂しい気持ちになる。
 あたしにとって、戦いっていうのは、あたしの中の日常のどのくらいの部分を占めているんだろう。
 この戦いを終わらせるという事は、そんなあたしのいくらかの日常を、削ぎ落とすという事。
 でも・・・でもね。
 あたしは、顔を上げて久遠くんの方を見た。
 久遠くんは、祠をじっと見つめている。
 削ぎ落とされたあたしの日常は、久遠くんと一緒に穴埋めしよう。
 ううん、そうしたい。
 この戦いが、最後になるように。
 あたしは唇を固く結び、短刀をぎゅっと握り締めた。


「鬼姫は・・・」


 ふと、久遠くんが呟いた。
 あたしは、久遠くんを斜め後ろから見つめる。
 その表情はよく分からなかったけれど、何処か遠くを見つめているような気がした。
 ここに来てからたまに見せるその目は、悲しみをたたえていて。


「久遠くん」


 あたしは呟く。
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