下町退魔師の日常
 あたしはその写真を覗き込む。
 それは、胎児のエコー写真だった。
 お腹の中の赤ちゃんの成長具合を見る、あれ。


「へぇ~、すごぉい!!」


 何がどうなっているのか全く分かんないけど、これがお腹の中の新しい命だなんて・・・凄く神秘的で。
 あたしは思わず感嘆の声を上げた。
 途端に、デレデレの幹久。


「なぁ見てくれよ。可愛いだろぉ! まだ男か女かも分からねぇんだけどな!」


 それから幹久は、ここが頭でこっちが足で・・・とか、細々と解説してくれて。
 写真を見ながらあたし達がわいわいやっていると、久遠くんがやって来た。


「よぉ幹久。何見てるんだ?」
「久遠、お前も見るか? 俺の可愛い子供の写真。まだ生まれてないんだけどな!」


 久遠くんは、エコー写真を手に取って、まじまじと見つめる。
 そんな久遠くんを見て、あたしも何となく落ち着かなくて、休憩室に視線を送る。
 久遠くんも、写真を持ったまま、微動だにせずに。
 ち、ちょっと久遠くん、何かリアクションしないと・・・あの、不自然、っていうか・・・。


「何固まってんだよ二人とも?」


 そんなあたし達の様子を目ざとく感じた幹久は、不思議そうにこっちを見つめていて。
 そこまできてようやく、久遠くんはぎこちない動きで幹久に写真を返した。


「あっ・・・かっ、可愛いよなその写真」


 いやぁ、可愛いとかそう言うレベルの話ではないと・・・。
 あたしは苦笑しながら頷いて。


「そっ、そうよね、とおっても、可愛いよね」


 あからさまに不自然な動きのあたしと久遠くんを、交互に見つめて。
 幹久はある1つの結論に到達したらしく、わなわなと震え出す。


「まっ・・・まさかお前ら・・・」


 やっ・・・ヤバい!


「なっ何よ!? 何でもないわよ!!」


 わっわっ、幹久!
 頼むから、こんなところで大声出さないで。
 みんなあっちで宴会中なのよ!
 そんなあたしの願いは、一瞬にして打ち砕かれた。


「まさかお前ら、子供が出来たりしちゃったりしたのかぁぁっ!?」
「わーっ!! ミッキー!!」


 邪魔しようとしたあたしの怒鳴り声も幹久の叫び声には敵わずに、休憩室の宴会は一気に静まり返った。
 たっぷり五秒の沈黙のあと。


「えええええーーーっ!!!」


 ここにいる全員が、一斉に驚きの声を上げる。
 どんだけ同じリアクションなの、この人達。
 あははは、と苦笑するあたしと久遠くん。


「ほっ・・・ほっ・・・本当なのかマツコぉぉぉお!?」


 誰よりも早く番台に走り寄り、シゲさんはあたしの肩を掴む。
 いててて・・・まだ、無理すると肩が・・・。


「うっ・・・うん・・・いやそのぉ~・・・まぁ、ね」
「マツコぉぉぉぉぉ!!!」


 頷いた途端、シゲさんはあたしに抱き着いた。


「そうか! そうかぁぁぁ!! 良かった、良かったなぁマツコぉぉぉぉぉ!!」


 もう、号泣しないでよシゲさん。
 あたしまで、もらい泣きしそうだよ。


「みんなにはちゃんと、こっちから言うつもりだったんだけど・・・」


 照れくさそうに笑いながら、久遠くんは言った。


「最近マツコの体調があまり良くなくて・・・その、病院に行ったのは、昨日、なんだ」
「間違いないのか?」


 真剣に、幹久が聞く。


「お前なぁ。産婦人科の医者が間違うとでも言いたいのか?」
「ま、そりゃあな・・・しかし驚いた。いやいずれはこうなるとは思ってたんだがな」


 まだ信じられないという様子で、幹久は腕組みをしながらブツブツ言っている。
< 160 / 163 >

この作品をシェア

pagetop