下町退魔師の日常
☆  ☆  ☆




 鬼姫呪怨伝説は、ここで終わっていた。
 なんともやり切れない、悲しい恋の物語。
 恋物語なら、ハッピーエンドにすればいいのに・・・。
 ――でも。


「でも、これだけじゃ姫様が鬼になったって事にはならないよね?」


 率直な感想を、あたしは言った。
 だって、もしかしたら殿様がすっごく大事にしてくれて、姫様は幸せな一生を送った・・・っていう可能性も無くはないじゃない?


「確かに、この物語はここで終わっているけどな、俺の家に言い伝えられてる話には、その続きもあるんだ」


 脳天気なあたしの予想は、久遠くんの言葉によって真逆だったって分かる。


「隣国に連れて行かれた姫様のお腹にはな、侍との子供が宿ってたんだ」
「・・・え?」
「当然、殿様は激怒して、姫様を城の地下牢に幽閉してしまった」


 ・・・うそ。
 でも、そんな激情型の殿様なら、すぐにでも姫様を殺してしまいそうなものなのに。


「そうだな、でも、幸か不幸かその殿様には子供が居なかった。生まれた子供が女の子だったら殺されていたかも知れないけどな、生まれたのは男の子だったんだ」


 あの頃の時代って確か滅茶苦茶な男社会だよね。
 跡取りのいない殿様にとって、男の子は喉から手が出る程貴重な存在だった。
 その時はすでに姫様と結婚していた訳だし、自分の子供じゃないなんて誰も疑わなかっただろうし。
 肝心の姫様は幽閉されていたから、情報が漏れる心配もない。
 ・・・何だか、こっちまで切なくなってきた。
 久遠くんも同じように気持ちが沈んだのか、心持ち元気なさそうに口を開く。


「姫様は牢獄の中で、全てのものを恨み続け、産後どんどん衰弱していって・・・そして亡くなった」


 侍にも裏切られ、父親と村人たちにも自分たちの身代わりに この身を差し出されて・・・挙げ句の果てに、やっと生まれた侍との赤ちゃんもこの手に抱く事もなく死んでいった姫様。
 それがどんな気持ちなのか・・・あたしには想像も出来ない位に悲しかったり、憎かったりするんだろうな。


「・・・だから、姫様は鬼になったの?」
「そのくらい、彼女は何もかもを恨んでいたんだろうな」


 何ともやり切れない話で、あたしは暫く何も言えなかったけど・・・ふと思い出す。


「それで、短刀はどうなったの?」
「短刀は、姫様が死ぬまでずっと肌身離さずに持っていた。この話にはまだ続きがあってさ」


 まだあんの?
 なんかもう重すぎて、お腹いっぱいになりそうだよ。
 続きったって、いい話じゃないんだろうし。
 悪い方の予想って、当たるのよね。
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