【短編】 ベテルギウスの幻影〜最初で最後のkiss






誰もいなくなったシアター。



ここがなくなったら、私はどうすればいいんだろう?



真っ暗になったスクリーンを見つめながら、途方にくれていたその時。



重たいドアーが開いて、人が入ってきた。


匂いだけでわかる。

この「オデオン座」の支配人、城島雅治だ。


彼はいつもラベンダーの香りを纏っている。


ゆっくりと、はじの階段を降り、スクリーンの中心に立った。


座席側の方を向いて、目を閉じる。

目に映っていた情景を脳裏に焼き付けるように。

この小さな映画館との別れを惜しむように。



寂しいよね。私も切ないよ。


出来ることなら、あなたのそばに行って、あなたを抱き締めてあげたい。



でも、出来ない。


私の手は生体を掴むことが出来ない。

ホログラムの映像のように、すり抜けてしまう。


< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop