妄想世界に屁理屈を。


ものも言わず、淡々と。

彼(雌雄もわかんないけど)は俺を見つめる。


つぶらな黒曜石の瞳に、とても愛嬌を感じた。


「…イト、お前家族とかいねぇの?」

返事なんかあるはずない。

イトは、ただ黙るだけ。

「俺ばっか見てよ。カラスなら仲間とかいねぇのかよ」

小さいくせに威圧感あるんだよな、イト。


月明かりに照らされるイトは、ゆっくりと近づき俺の肩に止まる。


「なっ…イト?」


重みがかかった。

こんなことは初めてだ。


触れることなんてまずない間柄なのに。


何かのパーツを埋めるように、イトは俺に身を寄せた。


「慰めてんのか、生意気な」


何を、とは自分でも思った。

俺は何に落ち込んでんだ。

俺は何を求めてるんだ。

俺は何に飢えてるんだ。



ただわかるのは、『山本黒庵』の名のみ。



「イト」

意味もなく名前を呼んだ。


そぉっと瞳を閉ざした彼に、意味なく笑みが漏れた。



なぜか、暖かい。



愛しくて愛しくて、暖かい。






俺は何に落ち込んでんだ。

俺は何を求めてるんだ。

俺は何に飢えてるんだ。



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