幸福
No.002 財布の女
 あたしはどこにでもいるただの高校生。どんなに頑張ったっていつだって普通。普通の家に生まれて、普通に生きてたら、普通に高校生になった感じ。

特に、夢とかないし、毎日がただただ過ぎていくだけ。

唯一あたしの毎日に刺激をあたえてくれるのは彼氏の存在。

あたしは、彼氏のことが大好き。
好きすぎて気が狂いそうなほどに。
なのに、彼氏は浮気ばっかりする。
あたしに興味ないみたいに連絡だって適当だし。
それでも長く付き合っていられるのは、彼氏が自分から「別れよう」って言えない人だから。
あたしが別れを切り出さない限り別れることはない。

こんな感じだけど、このことは友達には言えない。
友達の前では、長く付き合ってるのにいつまでもラブラブなカップルにしかみえないようにしてる。

定期的に彼氏にお願いして30分だけ時間をもらう。
その30分間はすごーくあたしのことを好きだと想ってもらうルール。
その貴重な30分間にできるだけたくさんの人に会える場所にいって、プリクラをかならず撮る。

たった30分のできごとを一日中一緒にいたかのように友達に話す。
友達に話すと、自分自身も、まるで本当に一日中一緒にいたみたいな気持ちになってくるから。

自分で買ったペンダントもペアーリングも彼に買ってもらったことになってる。

「いーな優奈は彼氏がいて♥」
「しかも4年も付き合ってるのにいまだにラブラブだしね♥」
「あたしもほしーな♥ペアーリング♥」

そう言われると優越感と共に情けない気持ちがやってきて、複雑な心境になる。

嘘だから。
彼氏がいること以外は嘘だから。
というより、もはや彼氏じゃないよね。

薄々感づいてる。
あたしは彼に上手く使われてること。
彼から「会いたい」って言われたときは必ず一緒にご飯を食べにいって、お金は全部あたしが払う。

あたしがお願いしてすごす30分の最後は必ず彼のショッピングにつき合わされて、支払いは全てあたし。

そんな彼の職業はホスト。
もちろんあたしのまわりは誰も知らない。

オシャレでかっこいい、年上の彼氏。

放課後、みんなと廊下を歩きながら話す。
「今日、帰りカラオケ行かない??」
「行くー!」
「みんな行けるの??」
「あたしパス!!彼氏とデートなんだ♥」
「いーなー♥♥」
「ごめん!!あたしもパス!今日バイトがあるから!!」
「えーさぼっちゃいなよ!!あんたいつも仮病つかって休んでんじゃん!!」
「ダーメ!!今日はお気に入りの大学生とラストまで一緒の日だもん♥だから、カラオケはまた今度ね♥」
「そっか!じゃあ、4人だけでいこっか★★」
「賛成!!」

この日のデートは嘘。
本当はお金のかかる彼氏をつなぎ止めるためのお金を稼ぐために、あたしは誰にも言えない仕事に行く。

璃子のようにお金持ちだったらこんな事までしてお金を稼がなくてもよかったのに。

愛をお金で買わなくてすんだのに。

あたしはどうしたら普通の幸せが手にはいるんだろ。




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