召しませヒメの甘い蜜
◆わからないほど知りたくなる


『……総一郎さんの為に、自分で料理を作って差し上げたいと思っています』


きっぱりと言い切った姫野の真剣な顔を神野は思い出していた。


(ったく、総一郎なんて爺臭い名前、どうにかしてくれ)

何を隠そう、神野の祖父の名と一緒だったのだ。

だから余計に記憶に残って、思い出したくなくても思い出してしまう。

(婚約者なんて古臭い風習がまだ残ってるなんて驚きだ)

今日は月に一度の定例会。

店のスポンサーである祖父に、会計報告を兼ねて顔見世をする日だ。

両親亡き後、神野は彼に育てられた。

といっても両親が無くなったのは彼が高校生の時だから、育てられたというよりは進学・就職のスポンサーになって貰ったと言うのが正解だ。

祖父総一郎は、限りある命の重さを身に沁みて経験し、孫である神野に無理に家業を継がせようとはしなかった。

彼の意思を尊重し、彼の進みたい道へと後押しを惜しまず、寧ろ励ましてくれたのだ。

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