この空の下で
二人の思い
 腹をいっぱいにして、我が根城であるアパートに帰る道中、雄治は加藤を見かけた。加藤は片手に小さな箱をぶら下げ、駅の方に向かっていた。加藤はこちらに全く気付いていないようだったので、雄治は車道をまたいで声をかけた。こちらに気付き、加藤が急いだ様子で車道を横切り、こちらに向かって来た。

「よぉ、どこ行ってたんだ、こんな遅くまで」

 加藤が言った。

「どこって病院に決まってるだろ。ま、お腹が空いたからちょっとお腹に入れに、店へ行ったけど…」

「ま、いいよそんなことは。て言うかどうだっ…」

 雄治は加藤から目を逸らした。それに気付いたのか、加藤はその話をやめた。そして雄治は加藤にこのことを打ち明けることを決めた。仕事仲間の親友であったし、加藤はなんでも知りたがる性格だが、秘密は最後まで守るので信頼できた。

 二人は公園に入って、ベンチに腰をかけた。

 そして雄治が話し始めると、加藤は静かに耳を傾けた。

 そしてすべてのことを話し終えると、雄治はひとつのことをすっかり忘れていた。それは芳江に利根川に捨てられた乳児の話をしてなかったことだった。ま、明日に話そう、と忘れないように頭に刻み込んだ。

 加藤は顎を触り、しまったというような顔をした。

「悪いな、変なこと聞いて。なんか自分が嫌になってきたなぁ…俺、このことは誰にも言わないよ。約束する」

「ああ」

 加藤は立ち上がり、雄治に小箱を差し出す。

「あ、これ、お見舞いに買ってきたんだけど…病院の場所分かんなくて、お前の家に行ったんだけど、誰もいなくてさ。だから、こう会ったんだから、はい、これ」

「ありがと」

 雄治は素直に小箱を受け取った。中身は多分、ケーキだろう。箱は冷えていた。

 加藤は自分の腕時計を見た。

「あ、やべ、終電が…じゃあな、古葉、奥さんによろしくな」

「ああ」
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