ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「そうだね……。しかしまみは寝てるし、行く所が思い当たらないなあ。家に来るかい? 何もないけど……」

「は、はい。ご迷惑でなければ」


やった。その言葉を待っていたのよね……


「了解。迷惑どころか、かえって有難いよ。まみが起きた時に君がいないと、またすねちゃうからね。……昨日の今日だし、今日は来ないだろう」


最後は呟いたのだけど、しっかり私は聞き取っていた。それはたぶん、山田美沙さんの事だと思う。新藤さんは、あの人と私が鉢合わせする事を警戒しているんだわ。私も、それはぜひ避けたいところだけど……


しばらくは無言で運転していた新藤さんだけど、信号待ちの瞬間、不意にポツリと呟くように言った。


「妻の事を話したい」


と。驚いて新藤さんを見ると、彼も私を見て、


「聞いてくれるかい?」


と言った。真剣ではあるけども、優しそうな目で見つめられ、私はコクッと頷いた。

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