ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
私の溜め息が聞こえたからだと思うけど、新藤さんは何に対して“すまない”と言ったんだろう。


私は立ち止まると、新藤さんの顔を見上げた。すると新藤さんも足を止め、私の方に体を向けた。


「色々とすまないと思ってる。君にも、まみにも……」

「新藤さん……?」

「僕は美沙さんには逆らえなくてね。昨日、君に今日の予定を聞いたのは、君を誘おうと思ったからなんだ。でも、考えてみたら美沙さんが何か予定を入れて来る可能性があると気付いて、それをやめたんだ」


あ、そう言えばそうだった。昨日の帰り、新藤さんは私に予定があるかと聞くから、私はてっきりお誘いがあるのかと思って期待したのに、そうじゃなくてがっかりしたんだった。

あれは美沙さんのためだったのね。美沙さんが何か言い出したら、新藤さんはあの人に逆らえないから、あの時点では予定を立てられなかったわけね。


「情けないだろ?」


私は思わず“はい”と答えそうになった。それはどうにかとどまったけど、実際に情けないと思ったのは確かだ。


「どうしてなんですか?」

「そりゃあ、負い目があるからね。僕は彼女のたった一人の姉を死なせてしまったんだから」

「そんなあ……」


口には出せないけど、新藤さんだけが悪いんじゃないと私は思う。亡くなった由梨さんにも、問題があったんじゃないかしら。

そもそも自殺という行為は本人の意思だし、もっと言えば、卑怯で無責任な行為だったと思う。まだ1歳になったばかりの、まみちゃんを遺して逝っちゃうなんて……

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