ギャルとメガブス
「やだよ。だって、楽しくないもん」

「だけど、今は、お母さんも先生もいないよ。

私と二人だけだし、弾いてみたら、楽しいかもよ」

「う……ん」


俊くんは煮え切らない返事をし、私の楽譜をぱらぱらと捲った。


「う~ん……別のやつ、弾いても良い?」

「何弾くの?」

「派手なのが良いかな、じゃあ、ベートーベンとか」


言い終わらないうちに、俊くんの指が、ヒュン、と宙を切って高く上がった。


轟音のような、出だしのフレーズ。


私は呆気にとられて俊くんの演奏を見守った。


運命。


まるで小学生が弾いているとは思えないような、大人びた音だった。
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