ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】


運良く朝食にありつけた俺たちは、そのまま藤ヶ崎病院へ直行した。

オンボロ車にナビなんか装備されているはずもなく、那智のスマホで検索した地図を頼りに、目的地へ到着。

そこは、濁瀬川の麓。大通りを橋の手前で北に少し入った堤防沿いにあった。その大通りを直進すれば濁瀬川を渡る橋、それを越えれば――

――濁瀬川地区だ。



来院者用の駐車場は一応敷地内には在ったけど、建物まで結構歩かなきゃならない。人工的に作られた並木道に沿って無言で足早に進む俺と那智は、通院中の患者だと思われる何人かを追い抜いた。


総合案内の職員に身分証を見せて事情を説明し、まずは薬局へ案内してもらった。

入口付近に居た職員は、30歳前後と思われる落ち着いた雰囲気の女性だった。

白衣を羽織った彼女は、プラスチック製の箱に入った薬剤と、A4サイズの伝票らしき紙とを交互に眺めていたが、声を掛けると一旦手を休めてこちらを振り返った。


愛想笑いを浮かべて身分を名乗り、

「東郷悦子さんについて、お伺いしたいんですが」

決まり文句で切り出せば、彼女は不思議そうに小首を傾げた。



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