恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
 


 古庄が振り向くと、案の定平沢がそこに立っていた。
 グロスでギラギラしている唇に、思わず目がいってしまう。あの唇が自分のそれに触れたかと思うと、古庄の身の毛がよだった。


「あの……、金曜日の夜は、あたし、古庄先生に失礼なことをしてしまって……」


 何もなかったことにして振る舞ってくれればいいものを、敢えて持ち出してくるのは、思い出させて意識させようとしているとしか思えない。


――この人が、あんなことさえ、しでかさなきゃ……。


 古庄は思わずそう考えてしまったが、真琴とギクシャクする原因はそれだけではない。


「いや、気にしてないから。もうその話は……」


 普段ならば愛想笑いの一つでもしてあげるところだったが、この時ばかりは難しかった。
 古庄の素っ気ない態度に、さすがの平沢も古庄の言葉にならない不快感を感じ取ったらしい。消沈してその場を離れる。


 古庄は、早くあの出来事を忘れ去ってしまいたかった。自分の中からあの感覚を消すよりも、真琴の記憶からあの光景を抹消したいと思った。

 そして、どうにかして真琴とのこの微妙な関係を修復したかった。

 
 
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