彼氏人形(ホラー)
しかし、それが入った瞬間、あたしはあたしと言う人間がどんな人間であるかを認識した。


「これで完成だ。あとは動作チェックをすればいい。購入者へ連絡しておいてくれ」


暗闇の中、男性のそんな声が聞こえてくる。


そして誰かの手があたしの足首に触れる。


そこには大切なスイッチがある。


あたしはすでにそれを理解していた。


腹部に差し込まれた何かが、あたしにそれを教えてくれたのだ。


そしてスイッチを押されたその瞬間、あたしは目覚めた。


真っ白な天井。


あたしを見下ろしている白衣を着た数人の男性。


その中に、あたしを見て涙を浮かべている女性の顔を見つけた。


その女性はとても老けていて、目の下にはクマがある。


「ほら、起きてごらん」


白衣を着た男性にそう言われ、あたしは上半身を起こした。


自分の体に少し違和感があったが、違和感の理由はわからなかった。


「動作も大丈夫なようですね。もうすぐ娘さんはあなたのもとに戻ってきますよ」


白衣の男性が、女性にそう言う。


女性は泣きながら何度も男性に頭を下げてお礼を言う。


「はやくお母さんのこと思い出してね、陽子」


見知らぬ女性は知らない名前であたしを呼び、手を優しく握りしめてくれたのだった……。



END
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