あの日あの時...あの場所で






「やぁ、久しぶりだね。良い子にしていたかい?」

運転手付きの車でやって来たパパの隣に座るなり、小さい子供の様に頭を撫でられた。


せっかく、セットした髪に何してくれるのよ。


「パパ、小さい子供じゃないのよ」

くしゃくしゃになった髪を手梳で直しながら、抗議の声を上げる。



「いや~すまんすまん。瑠樹を見るとどうしても小さい頃を思い出してしまってな」

つい、なんて後頭部に手を当てて笑うパパ。


彼の中では、私はまだ小学生扱いらしい。


咲留と言いパパと言い、猫可愛がりするのは止めて欲しい。


「もうすぐ18になのよ。咲留もパパも私を子供扱いし過ぎよ」

少し拗ねてそう言った私に、


「咲留も私も悪気はないんだよ。瑠樹が可愛すぎでついね?」

と苦笑いする。


そんな優しい瞳を向けられちゃ何も言えないじゃない。


パパが離れてた分の愛情を与えようとしてくれてるのが、分かってしまうから。


「瑠樹お嬢様。社長を許してあげてください。今日会える事を楽しみになさっていたんですよ」

助手席の彼が振り返って微笑んだ。

彼は桜井実(サクライミノル)、長年パパの秘書をしている人だ。

オールバックの黒髪に、縁のない眼鏡をかけた、いかにも秘書ですって感じの人。

パパに忠誠を誓う生真面目な部下の一人だ。



「...ま、分かってはいるんですけど、言わずにはいられないんです」

唇を尖らせて彼を見た。


「まぁ、社長と咲留様の溺愛ぶりを見ると、瑠樹お嬢様の苦労も分からなくもありませんね」

フフフとダンディーに笑った桜井さん。


「ですよね?最近は私を過保護にする人が増えるばかりで、嫌な子になりそうで怖いですよ」

まったく、と冗談目かして言えば、


「それが分かってらっしゃる瑠樹お嬢様は、嫌な子にはなりえませんよ。心配せずに甘えておくといいですよ」

と語られた。



うん....この人も甘やかしてくれる人の一人だった。


私の周りには私を保護してくれる優しい人達が大勢いるんだと改めて思った。


そして、それは幸せなことなんだと思えるんだ。









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