あの日の記憶は湿った空気のにおいと君の泣き顔に彩られている

「ぐっち……」


立川の顔は涙でぐずぐずになっていて、おれは思わず彼女の前に跪く。

ああ、もう、どうしてなんだよ。

教室に帰ってきた明信を見たときの確信めいた何かは立川を見つけたせいで確信へと変貌を遂げた。行き場のない怒りが雪のように降り積もっていくのを感じる。立川はまたじわりと自身の腕の中に顔を埋めて嗚咽を圧し殺す。大きく震える体は横隔膜が上下するのに同調している。屋根を跳ねる雨粒の音があまりに大きかった。


「……」


かける言葉も見つからなくて立川をそのまま見つめていれば、気づくとおれの手は立川の元に伸びている。無意識のうちにおれは立川の頭を撫でようとしていたらしい。

違う、おれじゃない。

立川はおれに触れられることなど望んでないのだ。それを自覚すると何度も考えていたはずなのに、優しい悲しみに捕らえられて水の中にいるような息苦しさが胸にせりあがってきた。


「たちかわ、」


うまく言えなさと何より誤魔化しの利かなくなった苦しみの中でひとつ大きく息を吸う。吐き出された酸素はおれたちの信じたくない真実の形に波打った。


「ふられたんだな」


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