幕末オオカミ 第二部 京都血風編
「誰かいたのか?」
副長と総司も立ち上がり、あたしの後ろから屯所内を見回す。
「山南さんか?」
「ううん……」
一瞬見えた、あの流しっぱなしの長髪……あれは……。
「伊東参謀……?」
そういえばあの人、足音を消して歩くのが得意だっけ。
もしかして、今の話を聞かれた?
でも……今の話を聞いたとして、伊東参謀がどんな反応をするのか、想像できない。
平助くんなら、山南先生に同情して明里さんを逃がそうとするかもしれないけど……伊東参謀がそこまで山南先生のためにするとは思えない。
「ちっ。仕方ねえ、斉藤に見張らせるか。
お前は一度店に戻れ。明里を逃がすんじゃねえぞ」
「はい」
「総司、特別に外泊許可を出す。
今夜は様子を見て、明日の夜詮議にかけるとしよう。
それまで小娘と一緒にいろ」
「はい、土方さん」
総司がうなずく。
「……誰も見てねえからって、色っぽいことに夢中になるんじゃねえぞ。
そんな暇ねえからな」
一緒に外に出て行こうとするあたしたちに、土方副長が最後の最後で冗談を言った。
「「わかってますよ!!」」
大声を出さないように二人で副長をにらみつける。
けれどその顔は、いつものように悪い笑い方はしていなかった。
とっくに、もっと先のことを考えて、頭を痛めている。
そんな渋い顔をしていた。