忠犬ハツ恋
「納涼祭、楽しかったか?」

そう問われて一瞬時が止まった。
檜山君と花火を見た事など大ちゃんは知らない。
知られてはいけないんだ。

「うん!花火を見るのにいい場所見つけてね!
すごく迫力あって良かったよ。
ハートの花火とか大ちゃん見た事ある?」

「いいや、そのうち美咲と見に行かなきゃな。」

大ちゃんは柔らかく笑って私に顔を寄せて来る。

私は静かに目を閉じて大ちゃんを受け入れた。

唇越しに大ちゃんの戸惑いを感じて目を開ける。

「大ちゃん?」

「いや……。何でも無い。
帰るよ。お好み焼き、サンキュ。」

大ちゃんは私の頬を撫でて扉の向こうに消えた。

正直、私を子供扱いする大ちゃんのキスが、もの足らなくなっていた。
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