夢の結婚 ……
第三章 思い出のキーホルダー
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「……ね……かして…んねーか…。」

「へっ!…?」


由美子は無事営業先を回り終え、

待ち合せの喫茶店に向かっていた。

その最中の事だった。


突然後ろから、汚れたTシャツを着た男に

声をかけられた。


その男は徐々に距離を詰めると、由美子

に向かって言った。


「かっ…金かしてくんねーかな、

じょうちゃんーっ!!」



男は黄ばんだ歯を見せながらニヤニヤ

笑って、由美子の腕を掴んだ。



はっ、と心臓が飛び出しそうな衝動に思

わず由美子は腕を振り払う。




「やめてっ!!」

その反動で男は道端に倒れ込んだ。


「わっ…わ…わ…」



咄嗟の現実感のない目の前の出来事

に、頭が真っ白になった。


「……おぃ…おぃ…なんの騒ぎだぁ…」

「ケンカかぁ…」




寂れたビルの角から何やら、汚ない作業着

を着た男達が出てきた。

男達はニヤニヤしながら、由美子に近付い

てくる。


「だめだなぁ、こんなとこを女が1人

でぇー!」

「金じゃなくてもいーょぉ……へへっ」




突然の出来事にまるで金縛りのような状

態でいると、男達はその間もヘラヘラ笑い

ながらついには由美子の腕を掴みどこかへ

引っ張って行こうとした。



由美子は咄嗟に腕を払おうとしたが、

男の力は気持ち悪いぐらい強かった。


「ちょっ……た、助けてー!」




本当にヤバイ時にこんな言葉しか出ない

なんてと内心思いながら、由美子は必死に

もがいた。




しかし恐怖のせいか、身体は思うように

動かず、足に力が入らない。



その間に男はポケットから長さ10㎝ぐら

いのものを取り出し、そこからゆっくりと

した動作でナイフを起こした。



動かないようにさせる為か、それを由美

子に押し付けてくる。

(……なんで……こんな目に…)




「静かにしてろ…」


「はっ……はひぃ」


由美子は泣きそうになりながら、返事と

も取れないような声を出していた。







「ぁぐぅっ!!」

…突如ナイフを突き付けていた男が由美

子の真横から2mほど前に飛ぶ。




突然の事に男達は由美子の後ろを見て動

きを止めた。


由美子も腕を掴まれたまま、後ろを振り

返える。





「……高橋組 若頭…… 高橋 真人だ。」



そこには先程まで一緒にいたとは思えない

程冷たい目をした、高橋 真人の姿だった。



…だが、由美子はなぜかそんな真人を怖

いとは思わなかった。





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「…た、高橋君…?」

思わず他人行儀になってしまう由美子。



うん?と不思議そうな顔で笑う真人は先程

までとはうって変わり、どこか幼さの残る

声で『無事でよかったです』と言った。



由美子は半ば真人に引きずられるように

しながら、車で会社に戻ろうとしていた。

「あ、あの…」


「はい。」



「ありがとぅ…。 その、…高橋君っ

て…「真人でいいです。 ヤクザか?…ですよ

ね。」



「……ぃや、その……」

「ちょっと寄り道しませんか?」



「え、寄り道って…どこに…」


真人はそう言うと、ある場所で車を止め

た。


「……ここは…?」


真人は黙って公園のベンチに座った。



そこは由美子のお気に入りの公園だっ

た。

由美子は戸惑いながら隣に座ると、真人

はおもむろに口を開いた。





「…やっと…会えた。

…由美子姉…ちゃん。」


真人はそう言って微笑むと、携帯を取り

出した。


そこには…サッカーボールのキーホル

ダーが幸せそうに揺れていた。






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