蝶々、ひらり。
堕ちた蝶

たどり着いたのは俺のアパートだ。
普段は原付で通う距離を歩いたのだから、時間は相当経っていたのだろうと思う。

ポケットから鍵を取り出した時、初めて彼女がたじろいだ。


「え?」


反応としては当然だろう。
自分に告白した男の部屋だ。友達としてただ出入りしていた時とは違う。


「入らない?」


俺の声は変に上ずっていて、まるで自分の声じゃないみたいだった。
有紀は迷いの表情を一瞬浮かべ、その後小さく頷いた。

俺も頷いて鍵を回す。
カチャリという金属音が心臓を打ち付けたような気がした。

炎天下の中で拭きだしていた汗が、部屋の熱気を浴びて更にべとつく。
まずはエアコンのスイッチを入れ、後ろにいる有紀に振り返った。

戸惑いを浮かべた彼女は、俺の真意を測りかねているのか入り口で立ち止まったままだった。

失恋に付け込んで告白して、返事をもらう前から部屋に連れ込むなんて。
今までの俺なら絶対にしないだろう大胆な、そして卑怯な行動だ。


「有紀」


それでも、止まらなかった。
彼女の名前を呼ぶのと同時に、腕を引っ張り中にひきこんで、玄関の鍵を閉める。
そのまま彼女を部屋の中まで引っ張ってきた。


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