蝶々、ひらり。
片思い

高校1年の最初の席替えで隣の席になったのが、有紀と話すようになったきっかけだった。

彼女は落ち着きが無く、自分の席で大人しくいることがなかった。
クラスの端から端まで友達のところを飛び回る。友達も多かったから有紀は呼ばれるたびに飛んで回っていた。

振り向きざまの笑顔が可愛くて、俺はそれを自分に向けて欲しくて。
決死の覚悟で苗字ではなく名前を呼んだのは、夏休みに入る前あたりだったか。

「有紀」

「なに? 大輔」

テンパってる俺とは対照的に、誰にでも向ける柔らかい笑顔を咲かせて有紀が振り向く。
同時に、制服のスカートがふわりと揺れた。

まるで蝶々みたいだと思った。





その日以来、俺は蝶を求め続ける。

彼女の背中にその名を呼びかけ、振り向いた笑顔に満足を得る。
あまりに何度も繰り返していたら、彼女が怒りだした。

「大輔、用がないなら呼ばないでよ」

ベーと舌を出して、拗ねたようにそっぽを向く。

頬杖をついたまま、そんな有紀の姿を視界に収め、言いようのない寂しさを感じていたのは不器用だった俺。

有紀が好きなのに。
素直に伝えることも、喜ばせることも出来ない。
友達の距離に甘んじて、蝶が自分のところに休みに来るのを待っていた。

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