蝶々、ひらり。
エピローグ

楽しい時間は一瞬だというけれど、それはまさに本当だった。

日曜の夕暮れの駅のプラットホームで、単身赴任のサラリーマンといった風体の人物が家族に見送られている。

俺たちも似たようなものだった。
互いをその手に取り戻した俺たちは、また会う約束を決めて再び別れの時を迎えていた。


「じゃあ、連絡するね」

「うん。電話もメールもちゃんとするから」


有紀の気持ちがここにあるって、もう疑わないし忘れない。

昨晩の、彼女の柔らかい体を思い出す。
あれほどの後悔を抱えた時と同じ行為に、ここまで満たされることができるなんて正直思わなかった。
まして、あれほど愛の言葉を囁やくことができるとも。

これから再び離れることに不安がないと言えば嘘になる。
まして有紀は、気持ちを伝えるのが下手だから。

だからちゃんと伝えるんだ。今度こそ俺から、もう二度と見失わないように。


「いつか迎えに行く」

「え?」

「有紀が仕事辞めてもいいって、思えるようになったら」

「……それって」


有紀が赤い顔で見るから、俺は恥ずかしげもなく彼女の頬にキスをした。


「愛してるから」

「大輔」

「行って来い」

「うん。行ってきます」


相変わらず、愛の言葉を語るのは苦手な有紀。
ここで「愛してる」とでも言い返してくれればいいのに。

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