暇を持て余した諸々のあそび
12忠実秘書官の場合
レイン:
「セナさんに戴いたレモンパイ、どうなさいますか」

ジン:
「生ゴミにでも出しておけ、うちの連中に間違って食わせると後が怖い」

レイン:
「かしこまりました」

ジン:
「はあ…まったく毎年この日は周りが大騒ぎして本当に無駄な一日になる」

レイン:
「約一名以外は主への忠誠の現れです。普段好き勝手をなさっているだけあって、この日ばかりはわたしたちは主から差しのべられた手に感謝しなければなりません」

ジン:
「感謝……ね」

レイン:
「なにか?」お前、昔に比べるとかなり人間っぽくなったな」

レイン:
「わたしは元々人間ですが」

ジン:
「ああ、そうだな。すくなくとも反抗心だけに死のうとする馬鹿なあばずれではなくなった」

レイン:
「あばずれですか…」

ジン:
「昔は俺があばずれと言おうが豚女と言おうが構わなかっただろう。それが、人並みに傷つき、他人を解り、誰かと会話し分かち合えるようになった。ずいぶんな進歩だ」

レイン:
「………お恥ずかしい限りです」

ジン:
「なにも恥じなくても。俺がそうしたんだ」

レイン:
「わたしは…わたしは、もう難民だった頃の廃れたわたしを忘れてしまいました。それがいいことなのかはわたしには解りませんが…少し、やるせないです」

ジン:
「…………」

レイン:
「…主、わたしはこれで良いのでしょうか。主が望むのならばわたしに迷いはありません、ですが、わたしは…」

ジン:
「俺は別になんでも言うことをきく人形が欲しかったわけじゃない」

レイン:
「!」

ジン:
「欲しかったのは人間らしい人間。そこらの動物と違って生存と繁殖以外に本能が求める物を持っているならば…それが見たくてお前を拾ったまでだ。お前が人間らしくしていればそれで俺は満足だがな」

レイン:
「それは…すみません、人間らしくだなんてわたしには理解しかねます」

ジン:
「それもまた人間だ。つまり自我を持ち、自律していろ。価値観や嗜好まで俺に依存しなくていいから、自分の好きなようにすればいい。なんなら俺に刃向かってくれたって構わないが?」

レイン:
「そんなっ、わたしが主に反抗など!」

ジン:
「半分冗談だ。流石にお前ほどなんでもできる秘書がいなくなったら俺も困るがな、うん。たまには反抗くらいしてくれた方が面白いかもな」

レイン:
「からかわないでください…」

ジン:
「そうやって頬を赤らめるのも女らしくて面白い。そうだな、次の目標は俺に意見してみる。どうだ?」

レイン:
「わたしはあくまで秘書官です。主に意見など…」

ジン:
「お前は決して使用人じゃない。それくらいしたって世間の笑い者にはならないぞ」

レイン:
「………善処します」

ジン:
「……ふ、今日はいいものを見れたな」


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