瞳が映す景色

――――
――


「ええっ? なんかあっさり仲直りしてるんだけど……頬っぺたに殴り合った痕跡がないんだけど~?」


何故だかジト目で非難される。


「そんなものでしょ」


「お互い気の済むまで拳を突き合わせたあと、ガッと手を握りあって仲直りでしょう。あっ、背景は燃える夕焼けだよね、勿論」


「星ひとつない夜空の時間に連れてきた張本人が夕焼けとか、……バカじゃないの」


翌日の夜、いつもの如くお店のカウンターと備え付けのベンチでの会話。白鳥さんはさも面白くなさげに、菜々とあたしの仲直りを喜んでくれていた。


詳細なんか伝えられないし伝えたくもない、そんな必要も感じられず結果だけをお礼と共に言ったところ、決闘じみた行為の有無を確認されて落ち込まれながら。


「お祝いにこれをあげよう」


白鳥さんからお礼と言われたものは、お弁当に入ったお漬物で、今日は苦手な胡瓜だ。でも、当然だけどあたしが断ると、それを飲み込むみたいに完食した。


「あっ」


「うん。何?」


ひとつ任務を思い出し遂行する。


「これを。昨日のちっこい子から白鳥さんにって」


「え~。ラブレターみたいのだったら捨てておいて」


「昨日のどの行動で好意持たれるんだか……。はい、チョコレート代」


「ご褒美だからいらないよ~」


「白鳥さんみたいな人から施しは死んでも受けたくないんだって。お釣りとか、死んでもいらないからって」


エプロンから取り出したのは二百円で、朝、菜々から任務を遂行しなければ膝を突き詰めて話し合いだと言われた。そんな面倒なことは避けたいからと、小さなポチ袋に入ったそれを白鳥さんに無理矢理放って渡した。

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