三周年記念小説
『解ったわ、
恵ちゃんが起きたら
連れて来てね』

それだけ言うと
胡桃が遠ざかって
行く気配がした。

文也と胡桃には悪いが
恵太の寝顔を
堪能することにする。

なんせ、五年振りなんだから。

「恵、恵、
夕飯出来てるってさ」

たっぷり堪能した後で
流石にお腹が空いたから
恵太を起こし、ご飯の前に
風呂に入り
着替えて胡桃たちが
居るリビングへ向かった。

『さてと、ご飯の前に
空白の五年間のことを
洗いざらい話してもらうわよ』

胡桃の勢いに押される形で
恵太は話し始めた。

ご飯が冷める程の長い話を
要約するとこういうことだった。

●あの日、
急にこの関係に疑問を持ったこと
●何時か俺に
捨てられんじゃないかと
怖くなったこと

●あっちこち、
回っている時に
あの女性と出会い
一緒にいる内に
そういう関係になったこと

この三つが主な内容だった。

最後のはともかく、
俺はそんな不安に
させてたのかと思うと
再び自己嫌悪に落ちそうだ……

「俺的には、
居なくなる前に
言って欲しかったよ
黙って居なくなられるより
大喧嘩になったとしても
その不安を
ぶつけて欲しかった」

これは“恋人”としての意見。

「居なくなる前に
別に俺じゃなくても
胡桃だって、文也だって
居るんだから相談
すればよかったんじゃないか?」

これは“兄”としての意見だ。

『亮くんの言う通りだよ
何で、居なくなる前に
俺たちに言わなかったんですか』

文也が呆れた口調で言う。

『恵ちゃんって時々バカよね』

哀れむような目で
恵太を見ながら胡桃が言った。

二人から視線を逸らして
小さく「ごめん」と呟いた。

まぁ、こうして
今此処に恵太が
居てくれることが
嬉しいから赦そう。

「お帰り」
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