潮にのってきた彼女
朝の空気を拓いて車は進む。
車通りは多くない。
街が静かな時間。
始まって間もないこの日が、展開の準備をする。

窓の外に見える太陽は、やっとその姿を全て地上に現した。


「久しぶりの家は、どうだった」


父さんは、いつも不意に問いかけを始める。前兆みたいなものがあまり感じられない。
俺は考えてから言った。


「いろいろと変わってたり、違ってたりした。忘れてたこともたくさんあった。驚いたことも。初めてわかったことも」

「そうか」


会話はぷつりと途切れた。父さんはまだ何か言いたそうだった。


「その……翔瑚。進也が、野球を始めたが」

「知ってるよ」

「お前と、同じ年だったな」

「小3だった」

「8年間、続けていたんだな――そして、あれ以来……。肩を壊した時、いや、壊したあと、お前は、心を閉ざしていたが」


要領を得ない父さんの話に、俺は何も言わなかった。
母さんと違って、不器用な人だった。父さんが今、何かを伝えようとしている。


「私たちは、何も、声をかけられなかった。あの時、何がお前を傷つけ、何がお前を苦しめるか、わからなかった。それを恐れて、お前に何も言えなかったことそ、今では後悔している」


信号が赤に変わった。
車はゆっくりとスピードを落とし、横断歩道の数メートル前で停止する。
1人、2人とつうこうしたあと、信号は青くなり、車は前進する。

父さんは続けた。
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