潮にのってきた彼女
ばあちゃんが扉をノックしてきたのは昼前のことだった。


「翔瑚、あんたあてに電話や」


相手は意外な人物だった。
話したいことがあるというので、30分後、俺は歩いて20分ぐらいのところにある川にかかった、橋の欄干にもたれて立っていた。


橋はちょうど川が海に流れ込む地点にかかっているので、前を向けば海が広がっているし、後ろにはずっと川が続いている。

小学校低学年ぐらいの夏休みにここへ来た時、この川でいとこ達と遊んだことがあった気がする。
橋の上から釣りざおを垂らしたり、川に入って行ってえエビやカニをとったり。
川と海の境目を裸足で歩いていって、どこから水が塩からくなるだろうと、川と海の水を舐めまくっていたこともあったはずだ。


そんなことを考えていると、やがて俺を呼び出した相手がやってきた。


「いきなり、悪かったな」


数日前に会った時とは、少し違った姿で現れた、慧は言った。


「髪、切ったんだ」


慧はかなりの短髪になっていた。
前は長めの髪型だったのだが、ものずごくさっぱりした。結構印象が変わるものだ。


慧が、川が見える側の欄干にひじを置いて落ち着いたので、俺も隣に並んだ。


「夏帆ちゃんと同じなんだ。髪、切った理由」

「夏帆と?」

「決心したって話だよ。大したことじゃないんだけどな、翔瑚には伝えておこうと思って」


髪型のせいかもしれないが、慧の表情はとても晴れやかに見えた。


「俺、卒業したら島を出て行くよ」


慧の口ぶりには、少しもゆらぎがなかった。
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