潮にのってきた彼女

+Ⅱ

海沿いの道を歩く。
歩道なんてものはないが、向かいから走ってくる車のスピードは自転車より少し速いという程度のもの。

舗装されていない道に出て、湾曲した道を進んで通り過ぎる家々の前にはこの時期、里帰りであろうピカピカ光る車やビニールプールがあったり、背丈の2倍もありそうな竹の釣り竿を持った子供たちがいたりする。

一段と大きくカーブした、入り江に沿う道に出て、3体並んだお地蔵さまを横目に山側へ体を向けると、入江高校は見える。


それほど盛んな運動部は存在しないため、いつもは静かなはずのグランドの方から、今日はいろいろな音が聞こえてくるような気がした。

背の高いヒマワリが茂って作る道を歩いて東門の方へ回る。
近づくに連れて増えていく声。

足元の方にツタが絡まった、フェンスに手をかける。


野球があった。



大勢の、泥まみれのユニフォームを着た高校生がいた。

ノックの最中のようだった。彼らは灼熱のグラウンドを走り回っていた。白い球を追いかけて。ミットを片手にどこまでも。
鋭い金属音と共に球が放たれると同時に、身体を存分に引き延ばして。
空で、地面で、捕る。

熱い声がグラウンドの熱を震わせていた。
視界が歪んで見えそうな熱気。

フェンスをつかんだ左手に痛い程の力がこもる。

どくん、と体の中で鳴り響くように鼓動が打った。


潮騒を聞く時のように、目を閉じる。
何十人の熱くて必死な声が、音となって身体を満たす。熱気に包まれる。砂けむりの匂い。


閉じたまぶたにもグランドは眩しかった。
目を開いてごくりと唾を飲み込む。
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