潮にのってきた彼女
「無駄なんかじゃなかったと思えたら」


牧村さんは天を仰いだ。


「そこからやり直すことも、進み直すこともできるし、もちろん、今を信じてまっすぐ行くこともできる。

振り出しに戻るわけではなくてね。

再出発の場所を、自分で決められるのだと思うよ」


彼は真っ直ぐに背筋を伸ばし、凛々しい姿勢を保っていた。
時折腰にやられていた両手は両ひざの上で握りこぶしをつくっている。


「ただし、その時には」


空を見つめる瞳に映るのは、過去か、未来か。


「自分に関わってくれたひとたちを、大事にすることを忘れずにね」

「…………大事に」


思わず、復唱する。


「何も難しいことではないよ。
誠意を持って相手と接する。それだけで、十分だ、と……私は静さんを見ていて思ったよ」


大事にしたいと思う人たちを浮かべ考えてみると、確かにそれは本当のような気がした。

誠意を持って相手と接する。

誠意を持って。


「ありがとうございます」


俺はベンチを立ち、牧村さんに向かって深々と頭を下げた。


「僕は僕だ、と言ってくれた、教えてくれた相手にまずは」


まずは、そう。


「誠意を尽くしたいと思います」


会いに行こう。
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