潮にのってきた彼女
巡る

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潮風が吹き抜ける離島。
人々はゆったりと行き交い、見知った顔と言葉を交わす。

海に囲まれたその地に住む生き物は皆、豊かな精神と寛い心を持つようになる。


うつくしく、湾曲した海岸線に沿って、防波堤を頼りに並ぶ家は多い。

数ある中の一軒。
この辺りには多い昔ながらの日本家屋で、傷も多く塗装のはげも見られるが、ところどころに修繕のあとが残り大切に住まわれてきた様子が見てとれる。


中には1人の女性がいた。ふくよかな体つきで、しかしきびきびと動いている。

家じゅうの掃除を終えると、ひたいに浮かんだ汗を拭い、肩を回しながら居間のテーブルについた。


「だんだん、しんどうなるなあ」


年をとったことを痛感したのかふと呟くが、それほど気が重いわけでもなさそうだ。


軽いため息をついてから、テーブルの上の新聞を手に取った。同時に扇風機のスイッチを入れる。

地方紙のため本土での大きな事件や政治の動き以外は、とりたてて目を惹かれるような記事はない。

流し読みしながら、ぱらりとめくると、次はスポーツのページだった。

目に入ったのは、島出身のとある大学生に関する一際大きな記事だ。
彼の大学対抗試合での活躍についてが書かれていたそれを、女性は穏やかな笑顔を浮かべじっくりと読む。


「頑張っとるねんなあ……」


今は外へ出ている家主へ見せるため、彼女は手近にあったハサミで切り取った記事を、今や似たような記事のスクラップでいっぱいになった桐の箱の下に、挟んでおいた。









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