潮にのってきた彼女
「行って来ます」


いつも通りの朝だった。

朝食、見送り、通学路。

いつも通りであるはずのそれらは、何か少し違っていた。


学校までの道さえも全て海沿いにあるので、俺は毎日この海を見ながら生活している。

砂浜は階段をおりたところにあるので、通学路だろうがどこだろうが太陽の昇る海、沈む海、荒れた海、穏やかな海、どんな海の表情だって見ることができる。


海の姿はそれこそいつもと変わらない。

波は揺れ、浜に打ち寄せ、岩に砕ける。

だけど、この海にはアクアがいる。



俺がそれを知っているか知っていないかじゃ、海の見え方はまるっきり違ってくる。

今日の海が今まで見てきたどの海とも比べられない、「特別」な海へと急転するのだ。


そんなことを昔どこかで聞いた。

そしてそれを思い出せたのもアクアの存在あってのことで、俺の生活、考え方、その中で既にアクアは、はっきりした形の居所を確立していた。



堤防にひじをつき、身を乗り出す。

太陽の光を跳ね返す海面のきらめきは、その日の天気を判断させるほど、日によって違ったものだ。


にぎやかな海面。
天気は快晴。


束の間天を仰いだあと、弾みをつけて堤防から離れ、通学路を疾走した。
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