潮にのってきた彼女
「……ごめんな……」

「いや、全然」


朔弥にだけは、転校の理由を話してあった。


「テレビで映んのなんか、しょうがない。朔弥のせいじゃないし、大丈夫だよ」


しょうがない。大丈夫。
自分に言い聞かせるように、繰り返した。


「それより、ありがとーな」

「翔瑚、固まってた。冷や汗かいてるぞ」


言われて初めて気がついたことだった。無意識なことが、近頃多すぎる。


「こんなに暑いのになっ! 冷や汗かけることがすげー」

「はは」


とりなすように明るく笑ってくれた朔弥の方が、何倍もすごい。
俺はたぶん、この笑顔に何度も救われている。


黙って、歩いた。
すぐにじわりと汗が浮き始める。海とあの涼しい洞くつが恋しくなる。
アクアは今頃、海の中だ。


「……ほんと暑いよな。そーだ、明日は海行くぞ、海!」

「明日はって、昨日も行っただろ」

「今度はほんとうに海水浴。んで、しょーごは夏帆ちゃんを誘え!」

「はあ……?」


思わず間の抜けた声を返す。


「けじめつけなきゃって思ってんだろ」

「まあ、それは……」

「だから、海だ海! しょーごんちは海沿いだから珍しくも何ともねーだろうけど、夏帆ちゃんちは学校より向こうだから山側だろ? 海なら、お互い素直になれるって!」


そんな簡単にいくわけない、そう言いかけて止めた。

確かにそれで問題がすっかり片付くとは限らないが、片付かないとも限らない。
逃げるのは止めて、できることからやっていくべきだ。


「……わかった」


力を込めて返事をすると、単純に小さなやる気が湧いて来た。

夏帆と向き合いきっちり話をする。
真珠だって見つける。
世の中が甲子園のシーズンであろうと、ブラウン管の中の世界なんかに負けたりしない。

逃げるのはもう終わりにするんだ。
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