潮にのってきた彼女
「……外、出ない?」


アクアは入り口の方を向いて言った。近かった顔が遠ざかる。俺は、「ああ」とかそんな風に返事をした。
瑠璃色を見つめた時に、自分が無意識に夏帆の存在を思い出していたことに、あとから気づいた。



岩に腰掛ける。太陽が崖の反対側にあるので、日差しが遮られてとても居心地のいい空間だ。

それからアクアと、昼になるまで喋った。


アクアが2日の間に会えたのは、二番目の姉と、ひとつ下の妹と、いとこだそうだ。
アクアは6人姉妹の4番目らしい。
真珠を捜索しているのはシェルラインの子孫なので、誰もが血の繋がりを持っているということになる。


そして今日初めてわかったこと。
驚くべきことに、アクアは人間以外の動物とも、ある程度の意思疎通が可能なのだそうだ。


「何となく、大体でだけどね」


アクアは飛び交う鳥に視線を向けて言った。

「言葉じゃなくて、感情がわかるの。今、楽しそうとか、嬉しそうとか、苦しそうとか。こっちから何かを伝えることもできるよ。
鳥が一番簡単かなあ。案外、魚は難しいの。大きい生き物の方が、やりやすいかもしれないわ」

「じゃあ、さっきの鳥の群れって……」

「わたしと話してたの。鳥たちが、これを届けてくれたから」


これ、と言ってアクアが開いた手の上には、俺があげたハート形の真珠が入っていた。
しかも、何か細い糸状のものに通してある。


「すごいでしょ。姉に頼んだら1日でできるって言うから、鳥に持って来てくれるよう頼んだんだ。お礼にうろこをあげて」

「うろこ?」

「うん。巣作りに、使うんだって。うろこはとても丈夫だから」


俺の部屋にもうろこのかけらが置いてある。出会ったその日にもらったものだ。
鳥に狙われるかもしれないから、窓際に置くのはやめよう、なんてことを考えていた。

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