潮にのってきた彼女
アクアと話した内容で、よく覚えているものにこんなものがある。


「海ってね」


その時アクアは、洞くつの前の小さな砂浜に寝転がっていた。


「全ての母なんだよ」

「あー、こっちでもよく言われてるよ」

「本当になの!」


ああその話ね、と軽々しく返事をした俺に、アクアは少しむっとして言った。
その勢いでアクアは起き上がり、三角座りをして海を見つめた。


「人魚も人間も、生まれて来たのは海からよ。先祖は同じ魚だし。だから生まれは同じ。帰るところも同じ、海なんだよ」

「帰る……」


俺は帰る場所、のことを思った。


白い漆喰に塗り固められた壁。
都心近くの住宅街の隅に、こじんまりと存在した庭付き一戸建て。
今までは、帰る場所と言えばその家のことだった。

今の俺が帰る場所は。
古い木の匂いがする木造建築。
広くて平らな感じの、海付き一戸建てだ。


そして最終的に、この世から帰って行く時に辿り着く場所。
それが、海だと彼女は言う。


「最期を迎えて、還って来る場所。海で出会った生き物たちは、地球上のいろいろな場所で輝いて、またこの場所で再会する。そして、生まれ変わる日を待つの」


それはアクアの持論というより、長きに渡って語り継がれて来た物語のようだった。

その物語を聞いて見た海は、神聖な場所に思えた。


輝きは、還って行った者たちの主張。
さざめきはささやき声。

生まれ変わる日を待つ魂たち。

最初に出会う場所。
最後に出会う場所。


そんな場所で出会った住人は、世界の違った見方を教えてくれた。
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