恐怖の友達
龍二はこの世の中から消えた。次はこの男だ。
季節はもう夏になるというのに毛布にくるまりガタガタと震えている。
「何だ!?」
誰もいない部屋で一人呟く充。
ピシ、ピシィと部屋の天井近くの壁が音を立てる。
「ち、ボロアパートが」
そう一人で呟く充。
水道の蛇口から水滴が垂れてピチャ、ピチャと音を立てる。
「壊れたのか?」
水道に近づく充。
喉が乾いたし調度いい。
水を飲もう。
そう思い充は蛇口に手を掛ける。
ジャバババ!
充が蛇口をひねる前から水が物凄い勢いで流れ出た。
「うわぁ! 何かいる……何かがいるぞ!」
慌てて水道から離れ、ワンルームの狭いアパートの一室から出る充。
「開かない!? 何でだよ! 何で!!」
充の切長の目が恐怖におのにき、日焼けした小麦色の肌から汗が伝い落ちる。
「逃がさない。ゲギャ……ゲギャギャ!」
ガラスに爪を立てたような声が充の部屋に響く。
何なんだよ! これは現実なのか!?
あり得ない。これは幻聴だ。錯覚。気のせい。
そう思ってみても、左肩が重い。
何かが俺の左肩に乗っている。
豪速球を生み出す黄金の左腕に。
この日、充は呪われた。
彼の左肩には赤い痣が出来ていた。
子供の手のひら程の大きさの。
「チュン、チュン」
「ギャア!」
拳銃が壁に跳ねるような音が聞こえ、充が叫んだ。
「何だ。スズメか。驚かせんな」
朝訪れ安心した充だったが、背中は水をかぶったように汗で濡れていた。