シンデレラを捕まえて
そうして色んな人を迎えて、たくさんの祝福を受けたころ。介添を務めてくれる幸恵さんが現れた。


「さあ、そろそろ行くわよ、美羽ちゃん」

「……はい」


立ち上がった私に、比呂がヴェールをかけてくれた。薄い絹越しに、比呂は優しく微笑んでくれた。


「幸せになれよ、美羽」


その瞳をしっかり見つめ返して、微笑んだ。


「うん、ありがとう……」


今日、私は穂波くんと結婚する。


麺屋気楽の店の先の、海辺にある小さな教会。
そこで、極々親しい人たちだけを招待した小さな式を行うのだ。


小島の中の教会は設備が余り整っていなくて、招待客の控室や支度室は全て気楽をお借りした。松浦夫妻には式の前からお世話になり通しだ。

幸恵さんに手を引かれ、教会まで向かう。
小さな森を抜けると青い海が広がる。漆喰塗りの教会の前には父が立っていた。


「おお、綺麗じゃないか」

「ありがと」


畏まった父の腕にそっと手をかけて、扉の前に立つ。
ゆっくりと開く扉。その先にいる男性は、私の姿を見て取るとにか、と笑った。
全く、こんな場面ですらそんな真っ直ぐな笑顔を見せてくれるんだから。
僅かに緊張していた私は、その笑顔を見て心がほぐれるのを感じる。ゆっくりと歩を進めながら、彼の下に向かう。

父から穂波くんへ、私の手が渡る。


「すっげえ、綺麗」


私を見下ろした彼が言って、私をその場で抱きしめた。


「わわ、ほ、穂波くん!」

「あー、たまんねえ。綺麗! かわいい!」

「おい穂波! まだ早いぞ!」


会場の後ろにいた比呂が野次を飛ばすと、穂波くんは私を腕から解放し、「ごめん」と照れたように笑った。


「もう、ばか」

「はい、すんません」


しゅんとしてみせたその様子に、教会内の人たちがくすくすと笑う。

ふっと見渡せば、そこには大切な人たちがいた。

彼らがいたからこそ、私は今、こうして穂波くんと共にいられる。祝福を受けられる。それは何て、幸せなことだろう。


「さて、式を始めましょうか」


穏やかな笑みで様子を眺めていらした神父様の声に、前を見る。


「幸せになっていこうね」


隣の声に、しっかりと頷いた。



――ここから、こうして、きみとの新しい関係を始めていこう。
 毎日丁寧に手入れをして、時に磨いて、時を共にして。
 無垢な木が深く色を深めていくように、私たちも私たちの色を重ねていこう。
 その色はきっと、綺麗なものになっているはずだから――

                               了
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