血液は恋の味
血液は恋の味

 盛大な溜息がつかれた。この溜息は、先程から続いている。

 溜息の主――カイルは、当初は回数を数えていたが、10回以降は数えるのを止めた。

 数を数えていようが、現状が好転することがないと判断したからだ。

 今宵は、両親の19回目の結婚記念日。

 それは喜ばしいことであるが、何故自身が立ち会わないといけないのかと、カイルは首を傾げる。

 結婚記念日というのなら、夫婦二人で過ごすのが一番。

 それがどのような意味があってなのか、両親は息子のカイルを呼んだ。

 それも、今回がはじめてではない。物心を付く頃から結婚記念日パーティーに参加させ、惚気話を聞かされる。

 そして今回もまた、同じことを繰り返す。

「……帰っていい?」

「それは、困るな」

「父さんと母さん二人で、過ごせばいい」

 その言葉に続き、溜息がつかれた。

 あの惚気は、精神的にとても悪い。

 惚気がはじまった瞬間、瞬く間のうちに魂が痛めつけられ、白目をむいてしまう。それほど、あれは聞くに堪えない。

 両親の馴れ初め――多少の説明なら聞いても楽しいが、それが事細かに詳しく話されると、それは一変し凶器へと変貌する。

 特にカイルの両親は、他の夫婦とは違う。吸血鬼と人間との恋愛。これだけで話のネタとしては盛り上がり、尽きることのないネタとなってしまう。

「いや、親子三人で過ごすものだ」

「母さんは、何て?」

「構わないといっている」

「そうなんだ」

 このように言われると、返答しづらい。

 なんせこの夫婦は、恋愛小説に登場しそうな設定を実際に行い、結婚したのだから。

 それだけ愛情は深く、結婚19年目にしていまだに熱々だ。

 テーブルを挟み、椅子に深々と腰掛けているカイルの父親。

 外見年齢は、二十代半ば。

 だが、それは人間としての見た目であり、実年齢は180を超えていると聞く。

 しかしそれは自己申告なので、カイルは本当の年齢は知らない。実際のところは、もっと年上の可能性もある。

 吸血鬼特有の金髪に赤い瞳。

 そして、象牙のように白い肌。

 このような人物と道端ですれ違ったら、一瞬にして心を奪われ、惹き込まれてしまうだろう。

 神秘的でありながら、妖艶で色っぽい。

 男女と問わず誘惑し惑わせることができる外見であったが、いかんせん中身に問題があった。

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