MOONLIGHT
1、出会い


もう、どうでもよくなった。

それが、正直な今の気持ちだ。


今日はあの部屋に帰る気にもならなくて、このホテルに泊まることにした。


はあ。


あの飲んべぇの大畑先生が、一滴も飲まないで眉間にシワを寄せて2時間、お説教なんて…。

大学時代にだって無かったことだ。

そりゃあ、大畑先生の反対を押し切った結果がこれだから、何を言われたってしょうがないけれども。


何だか、疲れた。

こんな時は、酔ってしまうのが一番だ。






昔から、高いところは好き。

どうせ酔っぱらうなら、高い場所がいい。

そう思って、やってきた最上階のバーラウンジ。

名前も気に行った。


『TOP OF YOKOSUKA』

いいじゃない。

サイコーだ。



白髪のタキシードの男が窓側の一番奥の席に、案内してくれた。

眺めのいい席には『予約席』の札がたっている。

だけど、今日はひっそりと飲みたいから、案内してもらった席でよかった。


「生ビール、2つ。」

席につくなり、そう言って、煙草を咥える。

「…お2つで、ございますか?」

私の注文に、少し驚いた顔で確認をするタキシード。

私は、疲れていて言葉にするのもおっくうだったので、タバコにライターで火をつけながら頷いた。



泡の細かいビールのグラス一つ目が、テーブルに置かれるやいなや私は、それを一気にあおった。

手には吸いかけの煙草を挟んだまま。


二つ目のグラスをテーブルに置き、そんな私を呆気にとられるように見つめたタキシードに、飲み終えたばかりのグラスを渡す。

そして。

「バーボン、オンザロックで。銘柄はなんでもいいわ。」

そう言って、2杯目のビールをあおった。



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