MOONLIGHT
5、凍った心



昔は…オサムと出会う前は、いつもこんな心の状態だった。

いわゆる、心、冷凍状態。


何事にも、動じない。

前をただ、向いていればいい。


他人を心の入り口で、追い返してしまえばもう、わずらわしいことは起きない。



私は、あれから1週間、病院に寝泊りをしている。

荷物を、瀬野将の家に取りに行かないといけないのだけれど、まだ心が凍りきっていないから。

まだ、行けない…。


携帯電話の電源は落としたまま。

病院の緊急用の、古い携帯電話を持ち歩いているので、仕事には別に支障はない。

戸田さんから、病院に何度も電話がはいった。

あまりに頻繁なので、仕方がなく出た。


「はい。」

『あー、やっとでたー。レイちゃん、あのな…「戸田さん。申し訳ないですが、戸田さんの診察以外で、もうお付き合いはお断りしたいのですが。『い、いやっ、まてっ。菊弥が大変失礼なことを…「もう、どうでもいいです。でも、これ以上、しつこくされるのでしたら、私、この病院を退職する選択しかありませんので。私には私の道があります。仕事に打ち込みたいんです。研究がしたいんです。それ以外の事は私には必要なかったんです。」


そう言って、一方的に電話を切った。


視線を感じ、振り返ると。



「神田先輩…。」


困ったような顔で、笑った。


「なー、アイス食べに行こうぜ?」






やっぱり、どケチの神田先輩の奢るアイスは、100円の、コンビニアイスだった。


診療時間が過ぎているので、総合待合室は閑散としていて。

沢山並んでいる椅子には誰も座っていなかった。

そこに、並んで座る。



「なんか、厄介な人に目をつけられたよな?」


蓋を開けて、カップの中身を見ながら、蓋を舐める神田先輩。

一応、医局長だよね?


はあ。


「戸田さん…もう、何したいんでしょうね?多分、鎌倉中の物件私が貸してもらえないように手配してるのも、戸田さんですよね?」


何となく、気がついていた。

自分のところのマンションに住め、ってことだよね。


神田先輩は、私の言葉には答えず、ただ苦笑した。


大人って、ずるい。

はっきり、言えばいいのに。


「……俺んとこもマンションあるからそこ住めば?」


そういう、解決方法か…がっかりだよ、神田先輩。






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