MOONLIGHT
11、目をそらさない、逃げるな



人気者の芸能人は、浮気はOKという定説にドン引きし、一気に気が重くなった。

俯いてまったく話をしなくなった私に、どうしたの?と声を木村さんがかけてくれるが、答える余裕さえなかった。





そうこうするうちに、撮影している部屋についた。

気配を察したのか、将のスタッフが飛び出してきた。

空いたドアの隙間から、皆から離れて後ろ向きで拗ねている弁慶の姿が見えた。

多分あの様子だと、誰が近づいても威嚇して唸るだろうな。

可哀相に。

あの状態でどれくらいいたんだろうか。

将は何をやってるんだ!?

浮気に加え、この弁慶への仕打ちに段々腹が立ってきた。

だけど、その前に、弁慶を。


「弁慶!!」


木村さんがドアを開けてくれ、急いで部屋へ入り弁慶を呼ぶ。

その瞬間に弁慶が振り返り、一目散に私の方へ飛んできた。

膝をついて、弁慶を迎えると。

鼻を鳴らしながら、膝に乗ってきた。

尻尾をちぎれんばかりに振って、抱っこしろと体で要求してくる。

要求どおり抱っこして、体をなでてやると咽を鳴らしながら、べったりと私に体を預けてきた。


「レイ、悪かったな。助かった…。」


気まずそうに、将がやってきた。

無言で、ギロリと睨む。


「ぷっ。」


何故か、木村さんが吹き出した。

何ですか、と不機嫌に聞くと。


「レイちゃんと、弁慶の表情が全く同じで、将を睨んでるからさ…ツボにはまっちゃって。」


何だよ、それ。

それより。


「将、弁慶に水飲ませてる?鼻乾いてるけど。」


ライト浴びてたんだよね?

そう思って聞くと、おやつも水もあたえてもとらない、という。

はあ。

全く…。


「あのさ…弁慶だよ?いきなりこんな人の多い、知らない場所に連れてこられて、警戒してるにきまってるでしょ。何で弁慶に撮影なんて引き受けたの?」


そう言うと、将は俯いてため息をついた。


「ドラマの最終回の宣伝なんだ。週刊テレビチャンネルっていう雑誌の。メイン出演者全員ペット飼っていて、主演の俺だけNGってわけにいかなかったんだ。弁慶には可哀相なことしたけど。」


もう…。


私は腕の中の弁慶を見た。

私に体を預け、緊張も少しほどけたようだ。

体を撫でながら、話しかける。


「弁慶…鼻、乾いてるよ?咽乾いてるんじゃない?お水飲んだら?」





< 92 / 173 >

この作品をシェア

pagetop