ささくれとレモネード



露痕をそのままにした三浦の眼差し。


喉を締めつけられるくらい、苦しさでいっぱいになる。


どうしてそんな顔するの、と口を開きたかったけれど、それより早く三浦の腕がするりと背中に回った。



「ごめん、」


ぼそりと呟かれた言葉に、榛名は眉を寄せた。


「なんで、謝るの」


恐る恐る問いかけてみたけれど、三浦は答えようとしなかった。


肩口に籠る温もりが頼りなくて、堪らず頬を寄せる。


深くなる呼吸に耳を澄ますと、添えられていただけの両手に力が入った。



「ごめん」


チャイムが二人の沈黙を破るまで、三浦が発した言葉はそれきりだった。







「それじゃ、次回は来週の月曜日なんで、それまでプリント配布と諸々お願いします。はい解散」


体育祭委員長が手を叩いて乾いた音を鳴らすと、張り詰めた空気が解けてゆく。



『体育祭開催のお知らせ』と題された保護者向けの資料の角を揃えていると、頭上から上野が言った。


「リレーの順番決まったら教えろよ」


荒っぽい口振りに、榛名は上野を見上げた。


「絶対隣のレーンで俺の背中見せてやるからな」


上野の視線は三浦に突き刺さっている。


ある日の緊張感が戻ってきたようで、心臓がざわざわとし始めてくる。


そんな榛名の不安をよそに、三浦は鼻で笑った。


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