*Promise*~約束~【完】

傷み~ライナットside~



俺は、どうすればいい。

母親を奪われ、部下が傷つき、リオが消えた。なのに何もできないでいる。


昔から、仲間を集めていた。近くに誰かがいないと不安だったから。

まずは、俺のお守り役だったダースを味方につけた。ダースはもともと兵士で、俺が変な目論見を立てないか見張っていたんだ。最初はおっかないやつだと思っていたが、小動物を愛でる光景を見つけてから、心から悪いやつではないのだと知った。

次に、ガイルが気になった。ダースに会って何かを話しているのを何度か見たが、どんなやつかわからなかったから話しかけずらかった。

そのうち、廊下でばったりと出会す機会があった。ガイルは慌てて俺を避けようとしたが、俺は堂々と立っていた。

なんだこいつ、といった変な目で見られたが、そんなのはお構いなしに俺は言い放った。



「俺の仲間になれ」



その時の俺はガキだったから、上からの物言いでガイルに言った。ガイルはしばらく俺を見下ろしていたが、ぷっと噴き出すとおかしそうに笑い始めた。



「笑うな!こっちは本気なんだぞ!」

「本気ではなくて、真面目の方が合ってますよ」

「クソッ……馬鹿にしやがって」

「では、僕があなたの家庭教師になってさし上げましょうか。なかなかあなたは興味深い。ダースから聞いてはいましたが、ここまで明るく、かつ復讐に燃えている方だとは思っていませんでした」

「は?」

「今までの生活を聞いていました。大人の事情で母親と離され、隔離された日々。ですが、性格はひねくれておらず、かつその食ってかかったような態度……そして、あの女に対するあなたの目は、人間とは思えないほど獰猛でしたよ」

「……俺を監視していたのか?」

「いえいえ、ダースに聞いたのです。リリスを見る目は人を殺す前のそれだとね。しかし、それをおくびにも出さずに接していられるのは凄いことです。僕はあなたが気に入りました。これからお供させていただいてもよろしいですか?」

「その言葉遣い、なんとかならないのか?回りくどい言い方は嫌いなんだ」

「家庭教師がため口でどうします?あなたには色々と勉強していただきますので、まずは僕から直に影響を与えるようにしなくては」



そのおかげで、俺はリリスの前での猫被りっぷりに磨きをかけた。 正直、ガイルの考えていることはわからない。何か隠しているように思えるが、そこは気にしないでおいている。


ここから、だ。


ここから、俺による罪人の引き抜きが始まった。

見かけによらず、ガイルは顔が広いことを知った。ガイルの提案により、自分の身は自分で護れるようなごろつきを集めるには未成年の罪人を育てた方が効率がいい、と子供の罪人を部下にすることにした。

脱走の隠蔽はガイルに任せ、俺はダースと共に警備のいなくなった刑務所にヅカヅカと入り込んだ。

その第一号が、エリーゼだった。

エリーゼは暗殺をし捕まったということだったが、その標的はどれも悪人だった。ギャンブルに嵌まっていた者、妻や子供に暴力を奮っていた者……男女問わず、闇を成敗していたようだった。



「俺の仲間になれ。そうすれば出してやる」

「私は何をすればいいわけ?年下に指図される覚えはないわよ」

「俺もこの国が嫌いだ」

「は?」

「俺の倒す対象はおまえとの共通の敵だと思っている。さらに、その対象には俺も含まれていると思うんだ」

「何言ってるかさっぱりわからないんですけど?」

「俺はある人物を殺したいほど憎んでいる。しかし、俺一人の力では無力に過ぎない。復讐の野心を持っている俺は、おまえの駆逐対象だろう?」

「私は無闇やたらに殺してるわけじゃないわよ」

「それを聞いて安心した。おい、ここから出してやる。その代わり、俺に尽くせ」

「は?ちょ、何よ?なんでこんなもの渡すわけ?」

「俺が間違えを犯したと思ったら、それで俺を撃て。ただし、俺がどんなやつか見極めてからな」

「意味わかんないんだけど」



と、エリーゼはブツブツと文句を言っていたが、外に出ればどこかホッとした表情になった。

時間が経つにつれ、エリーゼは礼儀正しくなっていった。確かに俺の言い分はわからないことが多い。なかなか意味不明なことを真面目な顔で言い放っている。


今の俺ならこう言うな。



「俺は人殺しをするために生きている。人殺しをしていたおまえはそれを正義だと思ってやっていたんだろう?それなら俺も同じだ。あいつを殺したいほど憎んでいる。だから、俺がそいつを殺すのを悪いことだと認識したとき、それで俺を撃て」



俺は自信家だ。間違ったことをしているとは思っていない。幸せを感じるなど、思ってもいなかった。ただひたすら、リリスの死のみを望んでいた。


しかし、リオの存在が俺に問いかけてきた。

幸せを感じてもいいのだろうか。

俺はこのまま死んでもいいのだろうか。


その問いかけに、俺は答えを出した。幸せになりたい、死にたくない。

だが実際、母親の死を知らされたらどうなると思う?


母親はすでに存在していなかった。生きていると思っていたのに、すでにこの世にいなかった。リリスに騙されていた。

俺は、なぜこんなところで生きているんだ?


< 49 / 100 >

この作品をシェア

pagetop