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実際には一度だけ、ハルが父親に怒鳴られているところを見たことがある。

思い出してみたら、今まで忘れていたことが不思議なくらい、忘れられない光景だった。

小学校の低学年、２年生くらいの時だと思う。

マンションの入り口で、びっくりするような大声で父親は怒鳴っていた。

内容まではわからなかったけれど「役立たず」という言葉だけはよく聞こえてきて、覚えている。

その時のハルは泣くわけでもなく恐れるわけでもなく、全く表情というものがなかった。

ハルのあんな顔は、後にも先にも見たことがない。

あの表情は何だったんだろう。

ダメージを軽減するために、心をどこかへ隠してしまっていたのかもしれない。

何らかの方法でダメージを軽減させなければ、きっとハルだってまともではいられなかったんだろう。