翠の墓守
第壱章
第壱章
第一話


地平線まで広がる草原。
翠色の波にぽつりぽつりと形の整えられた石が幾つも浮かんでいる。
腰ほどまである石を良く見ると表面には、その下で眠っているであろう者の名前が彫ってある。
屈んでその石のひとつを無意味に眺めている少女は、栗色の髪を風になびかせ立ち上がると誰にも気づかれないように、小さな溜め息を漏らした。

「おや?新入りちゃん。」

呼びかけられた方を向くと、自分よりも小さいおかっぱ頭の女の子が歩み寄ってきた。
溜め息に気づいて業務中だと説教でもするのか、それともただちょっかいをかけにきたのか、女の子の微笑みから予想するのは困難で、少女は考えることを放棄した。
「どうしたんだい?」
嗚呼、説教の方かも…。
と、嫌なことを想像する少女はおかっぱ頭の女の子と目を合わせられずにいた。
「ひどく、浮かない顔をしているね。ぼくとの見張りは、そんなに嫌かい?」
表情を変えないで、女の子は艶々した黒髪を揺らしながら顔を覗き込んだ。
ここまでくると答えない方が礼儀が悪いので、少女はあえて、焦ったように答えた。
「あっ…ごめんなさい。少しだけ、考え事をしていたのです。」
取ってつけたような返事だ。しかし、捻りすぎるよりも現実味があって良いだろうと彼女は考えたのだろう。
「ふぅん…」
返答について、味わう為に間合いを置いた女の子は、その幼い顔立ちに不釣り合いな静けさを含んだ大きな瞳で、少女を見る。
「それは、何故僕たちが墓守をしているのかということ?それとも、」
女の子は、催眠術でもかけているかのように少女と瞳を合わせる。
「どうして、死んでまで戦わなくてはならないのか。の、どっち?」
核心を突くその言葉は、翠色をした少女の目を大きく見開かせた。
「あっ、図星だったかな…。」
「あの…」
少女は風に乱れた髪を気まずそうに目を逸らしながら手櫛で直して、問い返す。
「先輩…。マチ先輩は、どうしてここで、墓守を続けているのですか。」
マチ先輩と呼ばれるたおかっぱ頭の女の子は目を伏せ顎に手を当てて、んーと、と喉を鳴らした。
それを不味く思った少女は間髪入れずに自らが問うたことを否定した。
「あ!!む、無理して言わなくても、大丈夫ですよ!!えっと…ちょっとした…その、こ、好奇心?探求心?ですので…!」
困らせてしまったか。更に説教を食らうのではないかと、少女は既にそこには動くことも存在すらもしない胸の内側を激しいほどに脈打たせた。

「ぷっ…ふふっ…あはははは!!いやいや、そうじゃないよ…くくっ…」

予想とは大きく外れ、マチは盛大に笑った。
戸惑いを隠せない少女は未だ、翠色の瞳を円くしてマチを見る。
「うん。わかるよ~、すっごくわかる!」
無邪気な、子供特有の笑顔には、先程の静かな瞳は想像出来ないほどだった。
「特に、現代の思春期時代に死んじゃった新入りちゃんだもんね!」
「なぁっ…!!?」
゛思春期゛というワードに反応したのか、一気に顔を赤らめて、いかにも思春期の少女な顔で驚く。
「やめてください!!せ、先輩の方が…充分子供じゃあないですか!!小さいし!!」
「おやおや、御免よ。新入りちゃん。」
わざとらしく歯を見せて「わっはっは!」
とでもいうように大きく口を開けた。
「あぁあとっ!名前も覚えて下さい!」
仕返しとでも言わんばかりに声を荒げて応戦するも、マチには歯もたたず「あはは!名前で呼んで欲しいのかい?」と簡単にあしらわれてしまう。
「なら、新入りちゃんの名前と理由も添えて一緒に教えておくれ。」
「……私は、」










< 1 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop