Special to me
★鬼怒川の夜~side KOUKI~
彼女が湯加減を調整した湯船のお湯は、俺にも丁度よい温度だった。

女性と温泉って、今までの人生であったかな。

グループで行ったことはあったけど、室内に露天風呂がついて2人きりなんてことは、俺には経験がない。

この程度の経験値で、彼女は俺を受け入れてくれるだろうか。

気持ちの良いはずの半露天風呂の湯船につかりながら、その気持ちよさを全く堪能できていない俺だった。

風呂を出ると、彼女は髪を乾かし終えて、敷いてある布団の上に座ってテレビを見ていた。

『あ、湯加減、いかがでした?』
「丁度良かった。長風呂しちゃったよ」

『全然長くないですって』
「男はそんなに長くは入らないものなんだって」

お揃いの浴衣を着ている彼女。

俺からタオルを奪うと、タオル用のハンガーにきれいに掛けてくれた。

「そんな気を使わなくていいよ」
『米原さんのことなら、何でもしてあげたいんです』

俺の隣に正座をした彼女はそう言った。

『私は、鉄道のお仕事のことは分かりません。けど、お仕事中の米原さんは間違いなく魅力的だし、そうじゃない今だって、私にはもったいないくらい魅力的です。こうやって、一緒に夜を迎えられることが嬉しいです』
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